Lahore to Peshawar(移動日)
         〜
広大な大地を横目に疲労困憊の日

今日はラホールを離れて、ペシャーワルへ向かう。
昨日のしょんぼりした気持ちを入れ替え、これからの長旅に備える。
今日は、距離にして300km以上、バスで8時間以上の長丁場である。

うぅむ、最近はだいぶマシになってきたとはいえ、
もともと車酔いしやすい体質であるため、これはかなり心配。
慣れない土地だし、そろそろ疲れも出てきているし、大丈夫なのだろうか。
いくら休憩を挟みつつ、といってもなぁ…。


不安を残しつつ、ホテルを出発した。
といっても、いきなりペシャーワルまで一直線!!というわけではなかった。
ハーシミーさんという白いひげもじゃの方に連れられて、
ジャマーアテ・イスラーミー(イスラーム党)の施設へ向かった。


ジャマーアテ・イスラーミーとは何かというと、
パキスタンを基盤にもつイスラーム原理主義団体。
そして、ハーシミーさんは、パキスタン建国詩人のイクバール研究をされている、
パンジャーブ大学オリエンタルカレッジのウルドゥー語科の教授で、
ジャマーアテ・イスラーミー創始者であるマウドゥーディーの研究もされているそうだ。

マウドゥーディーの著作は、前年のウルドゥー語の授業で読んだが、
かなり原理主義的な考え方で、びっくりした記憶がある。
血を流してもイスラームの原点に戻ろう、というなかなか過激な内容で、
イスラーム原理主義、イコール、過激派・テロリストではないのだけど、
なんだかその片鱗を感じさせるものがあった気がする。

そ、そんなイスラーム原理主義の施設に、私たちは足を踏み入れたのだぁぁ。
すごいことだ。こんな経験、普通にパキスタンに行くだけだったら味わえない。
改めて、この大学に入ったことはスゴイことなのだなと実感した。


ラホールのはずれの方にある、寂れた界隈の大きな門をくぐり抜けると、
そこはジャマーアテ・イスラーミーの施設内だ。
党本部の建物だけかと思いきや、礼拝堂や普通の家もたくさん並んでいて、
まるで一つの集落のようになっている。
ハーシミーさんもここで暮らしているようだ。

バスから降りる前に、ドゥーパッタを頭から被る。
しかし、うーん、どう被っても、こけしか防空ずきんのようになってしまう。
たかだかショール一枚なのに、奥が深い。難しいわ(--;
なかなかムスリムの女の人が被っているように、
頭からキレイなラインをつくれなくて、もどかしい。

そういうわけで、ここはイスラーム原理主義の施設内ということもあり、
女性がドゥーパッタを被ることは必須。
そして、中での行動も男性と女性は別々で行動する。
イスラム世界では、男女の生活は別々になっていることが多い。
学校も男女別だったり、食事のときも別々だったりする。

ムスリムの女性はみな清楚でおしとやかだ。
長いまつげの奥の大きな瞳がミステリアスで可憐。
話し方や動きもちょっと恥らったような雰囲気がある。
隠すという行為で、見えない部分の美しさが内面から滲み出すかのようだ。
もしかしたら、昔の日本人女性にも通じるものがあるかもしれない。


さて、興味深い体験をした後、
一日がかりのバスの旅がようやくスタートした。

ラホールからペシャーワルまでは、高速道路で移動。
舗装されてキレイな路面だし、他に車もほとんど走ってないし、快適♪

しかしこの高速道路、やたら都会っぽいなぁ。
と思っていたら、やっぱり思ったとおり。
韓国の援助で作られているそうだ。
近代的な感じが日本のと似ていて、パキスタンなのに変な感じ。


ラホールから離れるごとに、ごみごみした街並みは姿を消し、
徐々に緑の豊かな農村の風景が広がり始めた。

木々の間から見える家々は、泥で塗り固められたような赤茶けた壁。
その集落にも、ぽっつりとこじんまりしたモスクが存在している。
草むらから時折のぞくのは、家畜の牛やヤギの姿。
そして、家事に専念する女性たちと、無邪気に駆け回る子供たちの姿。
のどかな農村地帯の風景だ。


ラホールのあるパンジャーブ州は、世界でも有数の灌漑農業地帯。
パンジャーブという名前も、Panj(5)+ab(河)という語に由来していて、
その名のとおり、インダス河に合流する“5つの河”がパンジャーブ州を流れている。
英領インド時代に大規模に整備された灌漑用水路のおかげで、
パンジャーブ地方は肥沃な大地に恵まれているのです。

どこぞのサービスエリアに放し飼いされてたの


ほのぼのした農家の風景を通り過ぎると、
ごつごつした岩山の続く、荒涼とした大地が現れた。

層がずれてます

地層がむき出しになった山の斜面は、ダイナミックで感動的。
これは、インド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかったときの衝撃で、
このような面白い地層が出来上がったのだという。すごい!

とある橋を渡るとき、先生に「あれを見てごらん」と言われて写真を撮った。

画像が荒いな…

古くて立派な建物が河岸の向こうに並んでいる。
これはアトック城というお城です。


さてさて、バスはどんどん進んでいきます。
快適な高速道路のおかげで、車酔いもほとんどなし。
やや疲れてはいるものの、予想していたよりもかなり元気。


しかし、やはりここへ来て体調を崩し始めた人もちらほら。
とうとう病人が出た。旅の疲れがたまってきているようだ。

イスラマバード手前で、ペシャーワルのある北西辺境州に向かう道へ入った。
やっと着いた〜、というような気分に陥るが、
それでもまだ、今日の行程の半分を少し過ぎただけだ。
うーむむむ、長い道のりだ…。
軽く東京-大阪間くらいの距離はあるのではないだろうか…。

パンジャーブ州と北西辺境州の境目にある、アトックという街に来た。
ここでは、何とも面白い河に遭遇した。

手前の茶色いのは土じゃなくて水

インダス川の源流で、アフガニスタンへと流れるカーブル川と混じっている。

写真を見てもおわかりのとおり、河が二色に分かれているのだ。
奥の、キレイなブルーの水がインダス系水流。
チベット山系からの雪解け水が流れる、青っぽい色の水だ。
そして、手前の泥が混じって茶色っぽく濁っているのがカーブル川。

合流していたら、水も混じり合ってしまいそうなのに、
こんな風に真っ二つに分かれてるのは、なかなかの見ものだ。

バスから見える、様々なパキスタンの大地や自然を目にし、
改めて、何と興味深い国なのだろう、と思うのだった。

笑顔で手を振ってくれたおっちゃんたち


バスはどんどん北西辺境州へと進んでいくうちに、
いろんな物事がパンジャーブ州とは異なっていることに気づいた。

パンジャーブ州 Panjab 北西辺境州
NSFP (North West Frontier Province)
街 shahr men 男の人の割合が多い ほぼ男の人のみ
道路 sarak 舗装されているところが多い 舗装されていないところが多い
車 gaari 概ね飾りつけが派手。
日本の中古車をそのまま活用している車もある。
トラックやバスは全て派手な飾りつけ。
日本人に対して
Japani se mulaaqaat
とても友好的。 とても物珍しそう。
民族 nasl パンジャービー人。
インドのマサラムービーに出てきそうないでたち。
パシュトゥーン人。
アラブ系で、ビン・ラディン風のいでたち。
写真
shakal ki akkaasi
パンジャービーはどっしり パシュトゥンはしゅっとしてる
男  性   <mard>
髪の毛 baal 何となくハゲの割合が高いような(汗)。
ヘナで髪を赤く染めているおっちゃんもいる。
黒くて毛が多く、濃い。
顔 chehrah 丸顔が多い 卵型の顔が多い
鼻 naak だんご鼻が多い 鼻は高い
ひげ
munchh, daarhi

ひげ人口多数。若い人はひげなしの人も多い。

口ひげだけの人多数。
もちろん頬ひげとあごひげを伸ばしている人も多い。
口ひげ・あごひげ・頬ひげ全部ある人が多数。
肌色
khaal ka rang
浅黒い 比較的白め
体型 shakal 中肉中背。年配の人はどっしりした人が多い みんな背が高く細め
服装 libaas シャツ+ズボンという洋服スタイルも多い。
基本はシャルワールカミーズ。
ほぼ100%の男性がシャルワールカミーズ着用。
小物 zinat   頭にターバンを巻いたり帽子かぶったりする人が多い。
女  性   <aurat>
外出
baahr jaane aurteen
男性の数より圧倒的に少ない
バザールなどには群がっている ほとんどいない。どこにいるの??
服装 libaas 色とりどりのシャルワールカミーズを着用。
ごくごく一部、洋服の人もいたが、もちろんズボン。
おそらく100%シャルワールカミーズ着用。色は地味目。
子供以外の女性は全員ブルカで全身を覆っている。

ペシャワールにやっと到着!ふー、疲れたぁ。

まずは、ペシャワール最高級のホテル、
パールコンチネンタルへ向かった。

ここで泊まってみたい☆

ホテルの中華料理店で夕食だ。内装からしてめちゃ豪華!

キレイな店内で料理を待っていると、日本人らしき人物が。
先生がものすごくびっくりされたので、どなたなのだろうと思っていると、
パキスタンやムスリムのことについての本を書いておられる、
寺谷さんという方であった。何という偶然!

しかも寺谷さんは、私たちに○万ルピーというお小遣いまで下さったのである。
何という太っ腹な!さすが、高級ホテルに泊まっていらっしゃるだけのことはある☆
どうもありがとうございました。


食事の後、そのままパールコンチネンタルホテルへ…
というわけもなく、私たちは高級ホテルを後にした。
向かったのは、グランドホテルという中級クラスくらいのホテル。

一見キレイけど

中に入ると、何やら胡散臭い感じの雰囲気が漂っている。
きっとパキスタンの中では、この程度のホテルは良い方に違いない…。
とは思うのだけど、やっぱりさっきの超豪華なホテルを見た後では、
何もかもが見劣りしてしまってしょうがない。

ホテルの格が落ちたんだ、ということは、
チェックインの時点ですっかり明らかになった。

部屋の予約がうまく通っていなかったらしく、
みんなの部屋の割り振りがめちゃくちゃになってしまった。
2人部屋や3人部屋で予約をとっていたはずだったのに、
なぜか4人部屋やシングルの部屋になっているのだ。
何で?? どういうこっちゃ?!
4人はイイとしても、パキスタンでシングルって!恐っ!

そして、なななんと、私がそのシングル部屋に!ひーっ!
恐れつつ、何事も経験さっ!と開き直って、シングルのお部屋に行くことにした。
うわー、でも大丈夫かな?!

今にも壊れて止まってしまいそうな狭いエレベーターに乗って、
そのシングルルームの前へとやってきた。
おいおい、エレベータ降りてすぐの扉やん。危険度大やん。

木製でちょっと古ぼけた、小さな白い扉を開いた。
中に入って、入ってきた扉の方を振り返り見ると、
やっぱりというか、オートロックなどあるはずもない。
そしてさらに、扉にのぞき窓すらもない。
誰かがノックしてきても、おちおち扉も開けられないじゃないかぁ。

どきどき。部屋の中はキレイなんだけど。
ドキドキ。団体旅行中に一人部屋ってのも結構落ち着くんだけど。
どきどき。ドキドキ。どきどき。ドキドキ。



やっぱ恐いよぅ〜(泣)


いや、弱音を吐いている場合ではないっ。
…まずはトイレへ。

水しか出なかったりする

ふぅ、スッキリ☆ 水をザーっと流して…

…あれ?

…流してーっと。




え。ちょっと待って。
よいしょ(レバーを引く)。

ザ、ザーッと、ね…



え…、あ、あの…


な、流れないんですけど(汗)。


きゃー!マジっすか!
いやぁ、いくらなんでもココまで来てそれはないっしょー!!
ちょっとお腹も痛いかもしれんのに、ヤバイんじゃないですかねぇ〜?!


とりあえず、流れないものはどうしようもないので、
パニックで半泣き状態のまま、放置してました。
しばらくして、水が流れるようになったとの連絡があって、
ようやくトイレの水を流すことができました。
ほっ。ひと安心。


一人、部屋でそわそわしていると、
扉の外から男の人の恐ろしい喚き声が聞こえてきた。

えー…、ものっすごい怖いんですけど…(泣)。
ホテルの中が吹き抜けになっているため、
部屋の外に出て大声を出すと、ホテル中に響き渡るのである。

うぇーん(>_<)
一人はやっぱりコワイ。

結局、喚き声は酔っ払いのパキスタン人の仕業だと判明した。
って、何で酒飲んでるねんっ。


それにしても、みんなの様子が心配だ。
ダウンしているコが何人かいるので、
このまま一人で部屋にいるのも不安が積もるだけだし、
様子を見にお部屋訪問へと出かけた。

みんなの部屋へ移動するときも、
先に内線電話で「行くよ」と伝えてから。
ノックしても、のぞき窓がないから誰かわからないもんね。

下痢でダウンしている後輩たちの部屋に行くと、
一人はもうすでにぐったりしていた。
病院勤めの母に大量に託された薬の中から、下痢止めと抗生物質を、
あとは、インスタントのお味噌汁とレトルトのお粥をあげた。

そして、足の裏にできたマメが潰れて歩けなくなっている後輩には、
アルコール消毒薬を手渡した。

みんな、辛いなぁ。がんばれぇ。
ペシャーワルという慣れない辺境の土地に来てのダウンは、
精神的にも不安感が募ってくるものだ。
私もシングルルームに一人ぼっちでかなりへこむけど、
ここで私も一緒にへこんでいたら、雰囲気がもっと悪くなるだけだ。
私はまだ健康体なのだから、気丈に行かねばーーー。



←8/26へ     Top     8/28へ→